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【内科医が教える】コロナ後遺症(倦怠感、咳、味覚、頭痛、脱毛、めまい、うつ、ブレインフォグ)について徹底解説
コロナ後遺症について動画で詳しく説明しておりますのでご参照ください。
コロナ後遺症外来
当クリニックでは、2021年4月以来コロナ後遺症でお悩みの患者さんへの対応を積極的に行っており、これまでに800人を超えるコロナ後遺症患者さんの診療を行ってきました。
2021年にコロナ後遺症でUnMed Clinic Motomachiにご来院頂いた計286名の患者さんのデータを解析して米国の科学誌Journal of Medical Virology誌に論文報告し、現在でも診療の礎としております。まだまだ全容が明らかになっていない病気ではありますが、これまでに積み上げた診療経験やエビデンスに基づいた診療を心がけております。
※発熱外来ではないため、急性期の新型コロナウイルス感染症による症状の方はご遠慮頂いております。新型コロナウイルス感染症の確認後、所定の療養期間を経てからご受診頂きますようお願い致します。
コロナ後遺症とは?
コロナ後遺症とは、コロナウイルスに感染し、所定の療養期間を経て社会復帰した後も、様々な症状が残っている状態のことであり、英語では“Long COVID” と呼びます。
世界保健機関 (WHO)の声明によると、「新型コロナウイルス患者数の発症から通常3ヵ月間以内にみられ、少なくとも2ヵ月以上持続し、また、他の疾患による症状として説明がつかないもの」と定義しています。日本の厚生労働省からは、コロナウイルスに罹患した後、感染性は消失したにもかかわらず、他に原因が明らかでなく、罹患してすぐの時期から持続する症状や、回復した後の新たな症状、さらに症状が消失した後に再び生じる症状の全般をコロナ後遺症と定義されています。
コロナ後遺症の症状
当クリニックに来院されたコロナ後遺症患者さん(発症から平均35日後)の症状について頻度の多い物から列記します。
- 息苦しさ、咳、前胸部痛などの呼吸器症状
- 全身倦怠感、だるさ、疲れやすさ
- 繰り返す37℃以上の発熱
- 頭痛、関節痛、上肢痛、下肢痛
- 味覚障害、嗅覚障害
- 脱毛
- 胃痛や嘔気、腹部膨満感、下痢などの消化器症状
- 集中力低下や記銘力障害などのブレインフォグ症状
- 動悸、狭心痛などの循環器症状
- 不眠 (入眠障害、中途覚醒)
- めまい、立ち眩み
- 気分が乗らない、気持ちがふさぐなどの精神症状
- のどのつかえ感
- 手足の痛みやしびれ
次に、発症から1年後の主な症状について、国立国際医療研究センターの調査結果です。
- 記憶障害:11.7%
- 集中力の低下:11.4%
- 嗅覚異常:10.3%
- 頭に「もや」がかかったように感じ、思考力が低下する「ブレインフォグ」:9.1%
- 抑うつ状態:7.5%
- 味覚異常:5.9%
- 息切れ:5.6%
- 倦怠感:3.8%
- 脱毛:3.5%
コロナ後遺症の原因
原因については、ウイルス自体の様々な臓器への直接的な障害、サイトカインストムの影響、身体にウイルスの抗体が出来ていないことによる不十分な免疫応答の関与などなど諸説ありますが、最近のNature誌に掲載された研究(2023年9月、Yale Univ. 岩崎教授ら)で、後遺症患者においてコルチゾールが低下していることが分かり、コルチゾールが減ることで、低血糖や低血圧、集中力の低下や疲労感・倦怠感につながっていると考えられています。
私個人の仮説としては、ウイルス感染によるダメージ により心にも身体にも大きなストレスがかかり、その結果、自律神経のバランスが崩れ、心身に様々な症状が出現し残存しているものと考えています。そのため、自律神経の調子の波の中で、症状も日によって増悪寛解を繰り返すことも説明がつくと思います。
コロナ後遺症の治療
基本的にはそれぞれの患者さん症状の改善に適した対症療法を行います。治療の中心はやはり漢方薬であり、当クリニックでも約20~25種類の漢方薬を用いています。
呼吸器症状に対しては積極的に吸入薬を使用しておりますが、これは世界的な科学誌であるLancet誌でコロナ後遺症の呼吸器症状に対する有効性が報告されているためです。この吸入薬のお陰で、当クリニックのコロナ後遺症患者さんの呼吸器症状の早期改善に繋がっているものと思います。概ね全ての自覚症状に対して何らかの治療が可能な状況となってきておりますが、残念ながら味覚障害に対する治療薬は未だにありません。
当クリニックでの治療薬のラインナップの主なものです。Takakura, et al. J Med Virol 2022
コロナ後遺症の経過
海外からの計9,751症例を解析した論文によると、コロナウイルス感染症の診断後2カ月あるいは、退院後1カ月を経過した患者の72.5%が何らかの症状を訴えていたという報告があり、日本からは2022年4月に厚生労働省の新型コロナウイルス感染症により入院した患者1,066例を対象とした追跡調査において、診断から1年後で約30%、およそ3人に1人に後遺症が認められていたと報告されています。また、国立国際医療研究センターの502人のコロナ感染症患者さんを対象とした研究によると、何らかの症状が残っていると訴えた人の割合は、感染から半年後では32.3%、1年後は30.5%、1年半後でも25.8%と、感染から1年半後の段階でも4人に1人が何らかの後遺症症状を訴えていたということです。
こちらは私が執筆した論文のデータですが、症状によって回復期間には大きな差があることが分かりました。倦怠感・だるさを基準とすると呼吸器症状の改善は早く、発熱や頭痛・関節痛の改善も割と早めです。逆に、嗅覚障害、脱毛、そしてブレインフォグなどは残りやすい症状だと言えます。 Takakura, et al. J Med Virol 2022
コロナ後遺症の増悪因子
こちらも私が執筆した論文のデータをご提示致しますが、コロナウイルス感染症の重症度、コロナ後遺症の症状(訴え)の種類、そしてコロナの発症からコロナ後遺症の治療開始までの日数、これらいずれもコロナ後遺症の経過に影響することが分かりました。
コロナ感染症が軽症であった患者さんの方が、中等症以上であった患者さんよりコロナ後遺症の経過も比較的よく、コロナ後遺症の症状の数も多いより少ない方の方が経過が良い傾向にあり、そして発症から比較的早い段階でコロナ後遺症を疑って適切な治療を開始された方の方がより早く回復されることが分かりました。Takakura, et al. J Med Virol 2022
また、喫煙はコロナウイルス感染症そのものの発症リスク、重症化リスクであることは、皆さん既にご存知だと思いますが、実はさらにコロナ後遺症の増悪リスクでもあることが分かりました。 Takakura, et al. J Med Virol 2022
最後に
以上、コロナ後遺症についてご説明させて頂きました。あくまでも1施設からの限られた患者数のデータを踏まえた私見として参考程度にとどめて頂ければと思います。2023年5月以来、コロナウイルス感染症はそれまでの2類から5類感染症に変更され、いわゆる“風邪”扱いとなりました。確かに、症状は風邪とほとんど変わらないことが多いと思いますが、ただの風邪に後遺症はありません。その後、月単位あるいは年単位で様々な症状に悩む、それがコロナ後遺症なのです。
コロナ後遺症患者さんを積極的に治療なさっていらっしゃる渋谷のヒラハタクリニックからのデータによりますと、コロナ後遺症によって仕事に支障が出ている方の割合は65.6%もいらっしゃるようです。それだけ多くの方が長期的な業務制限や休職、そして場合によっては退職にまで追い込まれており、社会的影響の大きさを示しているのではないでしょうか。
コロナ後遺症を疑われる場合、できるだけ早く、コロナ後遺症の対応が可能な医療機関に受診されてください。そして、経過が長引いたとしても、過度に落ち込んだり、不安になったりすることなく、こんなもんと割り切って考えることも大事だと思います。その日の体調を1として、0.1(10%)リハビリを兼ねて行動しましょう。調子が良い日に無理をしたり、調子が悪い日に全く動かないというのは回復をより遅らせる可能性があります。一進一退を受け入れながら、あくまでもご自分のペースで回復されるようにしてください。